きみの手を。

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 早川の手を取る。もう、手を握るのに了承は必要ない。  それくらい自然に俺たちは手を繋いだし、もうお互いにそこに相手の手がないと落ち着かないところまできていた。  その可愛らしく熱を持つ手に、唇を、キスを落とす。  本当は舌を這わせたい。  けど、その衝動を抑えて、滑らかな肌を堪能する。  あぁ、なんて幸せな瞬間なんだ。 「私も?」 「……私も、好き」 「今夜は、帰らなくていいんだ?」 「……うん」  手に、指に、指輪に、頬に、額に唇を寄せ、少しの間見つめ合ったあと、俺は早川の唇にキスをした。  手とは違い、弾力があり、柔らかで、熱く、甘い。  唇もいいな、と思う。  早川を堪能できることに変わりはない。  もちろん、手が一番だけど。 「好きだよ、 奈緒 」 「私も」  キスをしながら、ソファに早川の両手を縫い止める。抵抗しない指先は、熱を孕んで赤くなる。  あぁ、この手で、俺のすべてに触れて欲しい。  俺のすべてを愛して欲しい。 「 奈緒 」 「はい」 「好きだよ。俺と付き合って」 「……はい」  計画どおり。  まだ第一段階でしかないけれど、半年以上かけて、俺は、早川の好意と、その完璧な手を好きにしてもいいという権利を得たのだ。
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