きみの手を。

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 奈緒と結婚して、娘が生まれたけれど、奈緒の手はまだまだ綺麗だった。  娘の美緒の小さなモミジのような手は、奈緒のそれとは違い、子どもらしくあかぎれもささくれもあったけれど、ひどく愛おしいものであった。  ぷにぷにで可愛らしい手を繋ぐと、どこか 奈緒 の面影のある美緒が俺を見上げて笑ってくれる。  美緒は、俺と奈緒が手を繋いでいると必ずその間に割り込んでくる。  奈緒の手を堪能できないのは寂しいが、俺と美緒と奈緒が手を繋いで歩いている、という状況は、とてつもなく幸せだった。  美緒が俺たちと手を繋がなくなっても、奈緒の手は綺麗だった。  お互い、しわが増えてきたねと笑い合える歳になっても、奈緒の手は綺麗だった。しわ一つ、しみ一つもないままだった。  歳をとって、孫ができても相変わらず、奈緒と出掛けるときは手を繋いだ。  その頃には、奈緒の手も少しはしわが刻まれ、弾力もなくなっていたけれど、俺にはそれが世界で一番の、美しい手であった。
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