きみの手を。

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「最期まで、手を握っていてほしい」  奈緒は何度も何度も頷く。 「できれば、死んだあとも、一時間くらい」  奈緒はしわくちゃな顔をさらにしわくちゃにして、涙を流す。 「できれば、通夜の晩も、ずっと手を握っていてほしい」  俺の体が冷たくなっても、奈緒の手に触れていてほしい。 「まぁ、たまに、顔に触れてもらいたい」  頬とか、額とか。  奈緒の手の、温もりを。 「お願いだ、奈緒。聞き入れてくれるか?」  奈緒のしわくちゃな笑顔。  俺の耳はもう聞こえないけど、奈緒のその笑顔で、彼女が了承してくれたことを悟る。  奈緒。  ありがとう。  俺は、幸せだったよ。  耳も聞こえず、目も見えず、匂いも嗅ぎ取れない、そんな暗闇の中でも――奈緒、きみの手の温もりだけは、最期まで、わかっていたよ。  ありがとう。  またいつか、きみのその手を、必ず見つけるから、待っていてくれないか。  来世でも、きっと奈緒を見つけよう。  それが俺の、計画だから。
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