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「もしもし、私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」
恐怖で歪んだ人間の口から魂を抜き取って、裁判所へ連れていくのが私の仕事。
私は死神だけど、鎌は持たない。携帯電話が私の「鎌」――彼らの生死を分かつ道具だ。
「もしもし、私、メリーさん。今、畑野青果店にいるの」
たいてい最初は、電話の相手――対象者はいたずら電話だと思って相手にしてくれない。何度もかかってくる電話によって、私が近づいてくることを察知してから、恐怖する。
そして、電話に出てくれなくなる。
でも、私はその間にも対象者に近づいているので、電話を拒否するのは無駄な抵抗以外の何物でもない。
人間は馬鹿だと思うけど、それが普通の反応だと知ってからは、普通の仕事風景だと思っている。
けれど、今回の対象者は違った。
『……メリーさん? 初めまして。僕は裕二。畑野青果店にリンゴはある?』
最初の電話で私に「初めまして」と言ってくれる人間は、私にとっても初めてだった。
私は面食らいながら、目の前の畑野青果店を見る。青いカゴに入れられたリンゴはあと一つ。
「リンゴは一つだけよ」
『それは残念。リンゴの名前はわかる?』
「ふじ、と書かれているわ」
『ふじか……赤い?』
「赤いけど少し黄色いわよ」
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