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「座るな」
たった一言だけど、その声音に相原君までも縮み上がった。
「だってあの話はオフレコだから違う場所でと思って……」
何なのか事情は分からないけど、道中に泣いたのか、由里ちゃんの目のまわりの化粧が崩れていた。
敵ながら可哀想になる。
でも戸川は呆れたように鼻で笑うと、手酌でビールをまた一気に飲み干した。
「じゃあ、なんでわざわざあのホテルにした?」
ほほホテル?!
周囲の女子と相原君の瞳孔が一気に全開になる。
「それは……」
「消えろ」
その低く静かな一言に、騒めきかけた周辺も静まった。
「先輩……」
「汚い奴は消えろ」
「でも」
由里ちゃんが言葉を繋ごうとした瞬間、カーンと耳を突くような音を立てて戸川がグラスを机に叩きつけた。
割れるよぅ、戸川っちー。
気を揉むあまり手をモミモミしてしまう相原君、その命拾いしたグラスにあせあせとビールを注ぐ。
なんか新米キャバ嬢みたいだ。
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