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わなわなと唇を震わせたかと思うと、由里ちゃんの顔がくしゃっと歪んだ。
ああ、泣いちゃうよ…。
普段邪険にされても、それがまるでコミュニケーションみたいに慣れっこの由里ちゃんも、さすがに今回は戸川っちの本気の怒りを感じたんだろう。
由里ちゃんはもう何も言えずにくるりと背中を向けると、顔を押さえて会場の出口に走って行ってしまった。
戸川はその姿を見送ると、自分を落ち着かせるかのように大きく息をついて、またビールのグラスをあけた。
戸川っちに群がるはずの女の子達もさすがに今は少し距離をあけて様子を窺っている。
仕方なくまたお酌役を務める相原君の頭にふと、あらぬ疑惑が浮かんだ。
ホテル。
石けんの香りの戸川っち。
……化粧の崩れた由里ちゃん。
まさか。
まさかまさかまさか。
何かの間違いがおこっ……
「お前な」
「え」
気が付くと、戸川っちが恐ろしい形相で相原君を睨んでいた。
「それだけは死んでもない」
「ありゃ。俺、口に出してた?」
……らしい。
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