2061人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
「戸川くーん!」
その時、喧騒の中、欧州部長の声が聞こえた。
部長達が群れをなす一角から欧州部長が手招きしている。
「うわ、モクモク席に呼ばれてるよ戸川っち」
うちの社の海事の部長達は禁煙に失敗した面々ばかりだ。
宴会になると、自然と部長達喫煙組は一ヶ所に集結して、煙モクモクの一角を形成する。
女の子は絶対に寄り付かないから戸川っちにはある意味避難場所ではあるんだけど、あそこに居ると燻されてベーコンみたいになる。
「……行ってくる」
気の進まない様子ながら戸川っちが立ち上がると、周囲の女子からは一斉に落胆の溜め息が漏れた。
戸川っちがあの席に呼ばれると、小一時間は解放されない。
なぜって、戸川っちは部長達、特に米州部長の大のお気に入りだからだ。
でも今、手招きしているのは俺達の上司の欧州部長。
何か話でもあるのか、部長は真剣な表情で戸川を促して廊下へ出ていった。
何だろう?
出張の報告?
そんなの今更だ。
現地から逐一状況入れてるのに。
最初のコメントを投稿しよう!