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子どもたちの歌が聞こえていた。寂しげな歌だなというのが、あの歌の第一印象だ。
その日、あたしは浩介と一緒に暮らすようになったから、歌のこともよく覚えている。
「一緒に暮らそうか」と微笑んだ浩介は、笑っちゃうくらいスーツが似合わなくて、泣きたくなるくらい優しかった。
浩介に声をかけられるまで、独りぼっちだったあたし。
寒くはなかったけど、浩介の腕の中はもっとずっとあたたかくて。
気がつくと、あたしは浩介にすがりついていた。
孤独という闇の中で、光を差し伸べてくれたのが浩介だったのだ。
浩介との生活はとても楽しかった。浩介は美味しいご飯を食べさせてくれるし、たくさんの玩具で遊んでくれる。
浩介が仕事へ行っていても寂しくはなかった。仕事から帰ってきた彼は、そのくたくたの体で、一番最初にあたしを抱きしめてくれるから。
「ただいま、サクラ。お利口だったね」と耳元でささやかれる甘美な響きは、いつだってあたしの体を優しく包んでくれた。
これを、幸せと呼ばずになんと呼ぶのだろう。
あたしはいつだって浩介のそばにいた。
あたしは幸せだった。
愛する浩介はいつもあたしだけを見てくれていたから。
だから、この幸せはずっと続くのだと信じていた。
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