28人が本棚に入れています
本棚に追加
その日、「僕たち、結婚するんだ」と浩介は言った。
隣には、微笑を浮かべたあの女。
「サクラにも祝福してほしい」と浩介。
「春から一緒に暮らし始めるの。サクラちゃんも一緒においで」とあの女が言った一言で、あたしの目からは大粒の涙がこぼれた。
あたしは、負けたのだ。
あたしの愛は、あの女に負けたのだ。
初めて見せたあたしの涙に、彼女は少し驚いて、優しくあたしを撫でた。
あの日、浩介から抱き上げられたときと同じくらい、その手はあたたかかった。
悲しいくらい、優しかった。
彼女があたしに触れたのは、それが最初で、最後だった。
最初のコメントを投稿しよう!