私の失恋

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「……先生」 「はい」 「おめでとうございます」  先生はキーボードを叩く手を止め、軋む椅子をくるりと回転させる。そして、私を見つめる。  今日は、私、大きめの作業用のテーブルでだるーんと伸びてはいない。テーブルに荷物を置いたまま、立ち尽くしている。  涙を浮かべて。 「内藤さん」 「職員室で他の先生が話していたのを聞いたの。別に、盗み聞きをするつもりじゃなかったのに」 「そう、ですか」  私、先生を困らせたいわけじゃないのに。困ったように笑う先生が好きだったけど、本当に困らせたいわけじゃないの。 「ご結婚、おめでとう、ございます」  涙が溢れて止まらないのに、先生、私は、生徒の中の誰よりも先に――そう、一番に、あなたに「おめでとう」って言いたかった。  私じゃあなたの一番にはなれないから、せめて。 「ありがとう、内藤さん」  古い椅子がぎしりと軋む。先生は立ち上がって、ケトルの電源を入れる。涙でぼやけて見えないけど、ずっと通いつめていたのだから、どこに何があって、先生がどう動くのかを把握している。 「コーヒー、入れますね」 「甘い、やつで」  ミルクも砂糖もたっぷりの、甘いコーヒー。まだまだ子どもの舌に、先生と同じブラックは無理。  だから、私じゃ駄目なんだというのも、わかっている。  差し出されたタオルハンカチをふんだくって、私は先生を睨む。
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