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「恋人が、いないふり、上手、だった」
「すみません」
「そんなに、里見、先生が、好き?」
「まぁ、結婚するくらいには」
先生に怒りをぶつけたって、仕方がない。この怒りは、不甲斐ない私に向けられるべきものだ。先生を、里見先生より先に恋人にできなかった、私への、怒り。奪いたい気持ちを抑え切れない、怒り。
「結婚式は、するの?」
「ええ。四組は全員呼びますよ」
「……行きたくない」
「そんなこと、言わないでください」
甘いコーヒーが私の前に置かれる。先生の誕生日に贈ったペアのマグカップに入ったコーヒー。先生が赤、私が青。里見先生に使わせていないといいんだけど、先生にそういう機微は期待できない。きっと、里見先生もこのマグカップを使ったんだろうと思うと、腹が立つ。
ぐすぐすとしゃくりながら、私は甘くて熱いコーヒーに口をつける。
「里見先生、まだ一年目なのに、結婚早いね」
「教え子ですから」
「あ、そうなんだ。え、まさか、里見先生が高校生だった頃から?」
「いいえ、里見先生が赴任してきてからです」
先生はまた椅子に腰掛ける。私は立ったまま、行儀悪くコーヒーを飲む。
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