第1話 無情な眼差し

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ーーーこのままでは殺される。 今、目の前に立っている人間は、俺を見ている。 その瞳に宿る感情は・・・殺意。 憎しみでもなく、怒りでもなく・・・ ただ、無表情に目を見開き・・・うなり声をあげながら、俺を見ている。 猫が獲物にジリジリと距離をつめて、低くうなり声をあげながら、 今まさに飛びかかる寸前・・・そんな感じ。 俺は、彼女の視線に、身動きできずにいる。 寺に併設された墓地の中で。 先日降った雪が溶けきれずにまばらに残って、吐く息が 白い・・・。 墓石の並ぶ灰色と白の世界の中で、俺とその人と二人きり、対峙している。 俺が動けば、すかさず彼女は飛びかかってくるだろう。 かといって、このまま動けずにいても、やはり彼女は 襲いかかってくる。 彼女は年老いている。 正確な年齢は知らない。 でも、多分80歳近いのではなかろうか。 17歳の男の俺の方が力では確実に勝てる。 俺が本気で殴りかかれば、ただ事ではすまないだろう。 だから、躊躇する。 反撃する事は、選択したくない。 怪我をさせたくない。 でも、彼女の目は、彼女の瞳に宿る殺意には、 そんな甘い事を言っていられない恐怖を感じる。 死にたくない。 それだけは確かな感情。
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