第1話 無情な眼差し

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怪我をさせるかもしれない。 でも、仕方がない。 俺は、死にたくない。 俺は、彼女に背を向け、走り出す。 同時に、彼女は奇声をあげながら、 やはり俺に飛びかかってきた。                ※ ほんの数時間前だ。世の中がおかしくなったのは。 元旦、テレビは着物姿の芸能人が和やかな番組を流している。 大晦日は家族で過ごし、風邪気味の弟を気遣いながら妹と3人でゲームをしながら 遊んだ。 妹も弟も小学2年生の元気盛りで、双子のパワーに押されながら、いいお兄ちゃん だと我ながらに思う。 もう昼に近い時間になって起きだし、欠伸をしながらリビングに入る。 「もう!何時まで遊んでたの?冬休みだか らって、あまり夜更かししてたら、新学 期が大変よ?」 母さんが、小言を言いながらも俺の為にコーヒーを注いでテーブルに置いてくれる。 「俺はなんどもあいつ等にもう寝ようって いったんだよ? でも、あいつら、自分が勝つまで辞めな いんだもん。」 俺は椅子に座ってカップを手にもつ。 すぐには飲めない。猫舌だから。 「あんたも年甲斐もなく小学生に向かって 本気だすから・・・。」 母さんは、ふふっと笑いながら、向かいに座 って一緒にコーヒーを飲む。 微笑みながら俺を見つめ、 「零央(れお)も、もう今年高3になるのよ ねぇ・・・。本当に時間が経つのは早いわ ・・・。」 しみじみと言うので、ちょっと気恥ずかしくなる。 「もう、志望校は決まってるの?あんた、 全然将来の事私たちに相談してくれない じゃない。何になりたいとかあるの?」 「・・・。」 俺は、どう答えるか迷う。 興味のある事は、ある。 俺は、絵を描くのが好きだ。 美術部で、先生にも美大を目指すなら後押しするとまで言われている・・・。 でも・・・。 「母さん、来週から入院だろ・・・。横になってた方がいいんじゃないの?」 「もう、入院の準備も終わってるし、体力 があった方がいいから、動いていた方が いいのよ。そんな事より・・・」 俺はコーヒーカップを持って立ち上がる。
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