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「零央兄ちゃん!お母さんがお餅焼いたって!」
扉のノックの音で目が覚める。
どうやら、あの後、俺は部屋に戻ってスマホをいじりながらベッドに潜って、
少しだけうたた寝してしまったらしい。
部屋の外で、俺より後に起きだしてきたらしい双子が、
バタバタと階段をかけ降りる音が聞こえる。
時計を見ると、もう午後3時。
ちょっと願掛けしに初詣に行こうと思ってたのに、予定よりも少し遅くなってしまった。
お餅食べてから行くか。
俺は、スマホを持ってパジャマのまま階下に降りる。
リビングからは、きゃっきゃとはしゃぎ回る双子の声が聞こえる。
「陸の奴、病み上がりだっつーのに、また
ぶり返すぞ・・・。」
俺は、弟の陸を叱ろうとリビングの扉を開ける。
焼きたてのお餅を皿に載せて運ぶ母さんと、人数分のお箸を持ってはね回る妹の陽乃、
そして椅子に立って飛び跳ねる陸の姿。弟が着地する度に重ねた取り皿がテーブルの上で
カチャカチャ音を立てている。
俺の大切な家族の風景。
部屋に入ろうとして、目が、合う。
母さんが、俺を見る。
さっきまでにこやかな顔で双子たちを見ていた表情が、
俺の存在に振り向いた瞬間、ストン、と表情がぬけ落ちる。
続いて陽乃が、陸が、俺を見る。
さっきまであんなにはしゃいでいたのに、俺を見た瞬間に
動きが止まる。
初めて向けられる、俺への視線。
ドクリ・・・心臓が鳴る。
俺を驚かせる悪いイタズラか?それとも、俺、何か
怒らせる事・・・した?
「母・・・さん?」
我ながら、声がひきつっているのを感じる。
「ぅぅぅうう・・・。」
母さんが俺を見つめながら低くうめき声をあげる。
「母さ・・・っ!!」
母さんが持っていた皿から手を離し、派手に割れる。
同時に、母さんが両手を前に突き出し、叫び声をあげながら迫ってきた。
一瞬の事で。
あまりに一瞬の事で、母さんが俺の首を締めあげている状況を
理解するのに時間がかかった。
母さんの目は見開かれ、俺を殺そうと見つめ続けている。
頭がチカチカし、俺は母さんの手を必死で引きはがそうと
試みるが、凄まじい力でガッチリと締めあげられている。
俺は母さんの肩を掴み、母さんごと横に倒れる。
身体を床に打ちつけたと同時に母さんの手を引きはがす事に成功する。
息を必死に吸い込もうとし、肺が痛んでせき込んだ。
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