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ズキリ・・・と、太股に強い痛みを感じる。
ハッと顔をあげると、陽乃が無表情のまま、俺の太股に箸を突き刺している。
陽乃の後ろからは、手に割れた皿を掴んだ陸が、
やはり無表情のまま俺に向かってくるのが見えた。
先ほど俺に転ばされた母さんも、また、俺を見ながら体制を整え、
今まさに飛びかかろうとしている。
俺はきびすを返し、リビングから飛び出た。
心臓がバクバクと脈うちながら、玄関に向かう。
母さんたちが俺を追ってくるのを感じる。
靴を履いている暇なんかない。
俺はただ、「なんで。なんで。」と口の中で繰り返しながら、玄関を飛び出た。
俺は、がむしゃらに走った。
現実を受け入れたくなくて。
今あった出来事を忘れたくて。
必死に必死にあてもなく走った。
うちは閑静な住宅街にある。
しかも元旦って事もあって、道路に人の姿はなかった。
でも、人がいた所でどうする?
道行く人を捕まえて「家族がおかしくなった」って、そう
伝える?
この先を曲がると確か交番があった。
でも、警察になんて言えばいい?
助けを求めて、母さんや陽乃や陸は・・・どうなる?
俺は、その場で立ち止まる。
後ろを振り向くと、もう母さん達の姿はなかった。
俺は、痛みを思い出して足を見る。
箸で刺された所からは血がにじみ、ズボンに赤い染みを作っている。
でも、痛みは足の裏からも感じる。
裸足でがむしゃらに走ったから、足の裏には砂利や落ちていたガラス片が
足に食い込み、血を出していた。
痛みを思い出してしまってからは、一歩あるく度に顔がゆがむ。
しかもパジャマのまま、持っているのはポケットにつっこんだスマホだけ。
雪溶けの冷たい風が、俺の身体を震えさせる。
このままじゃ死ぬ。
俺は、友達に助けを求めようとスマホを掴む。
画面を操作していると、ふと視線を感じる。
ハッとして慌てて顔をあげると、数メートル先の家から出てきたらしい夫婦の姿があった。
手には破魔矢を持っているので、今から神社に奉納に行くのか、そんな出で立ちだった。
でも、そんなのはどうでもいい。
何故。
何故二人とも、あの目をしているのか。
母さん達と同じ目。
彼らもまた、奇声を発しながら俺の方へ向かってきたのだった。
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