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「はぁ・・・はぁ・・・。」
息が上がって苦しい。
俺は気づいた。
おかしくなったのは、母さん達だけじゃない。
違うんだ。おかしくなったのは周りでなく、俺だ。
俺は人気のない墓地に命辛々逃げ込み、見知らぬ人の墓の
近くに身を屈めて隠れながら状況を整理する。
みんな、俺の姿を見るまでは普通だった。
みんな、俺を見た瞬間、あの表情になるんだ。
そして、俺を殺そうとする。
何故。
何故。
何故こんな事に。
何度も頭の中でグルグル考えるが答えは出ない。
寒くて身体はガタガタ震えている。
足の痛みも最早麻痺してしまった。
人が怖くて。
あの目が、あの表情が怖くて。
俺はただただ震えている。
そんな時、スマホから着信音が鳴った。
「あ・・・。」
相手は、水島レミ。
昔の同級生。
SNSで新年の挨拶はするけれど、そんなに積極的に
連絡を取り合うような仲ではない。
俺の男友達と仲が良い。でも俺とは、友人という程には
仲は良くない。
そんな相手からの着信に、予感がする。
「・・・もしもし。」
恐る恐る電話に出ると、レミの緊迫した声がする。
「ねぇ!あんた、今、死にそう!?みんなが変なの!
殺される!ねぇ!どうなの!?」
「落ち着いて。変って、殺されるって、お前もなのか!?」
俺だけじゃない。仲間を見つけて、心臓が早鐘を打ち、
顔が紅潮するのを感じる。
「ああ!あんたもそうなの!?みんな、私を見ると
襲いかかってくるの!尚と塔矢も今逃げてる所だって。
身を隠してるって。あんた、家近くよね!?今どこにいるの!?
もう、嫌!!怖いよ。助けてよ!!」
レミの家は近所で、確かこの墓地からそう遠くはない筈だ。
仲間が欲しくて、一人でうずくまっているのが心細くて、
俺は今いる場所をレミに伝える。
「私がそっちに向かった方がよさそうだわ。
墓地なら身を隠せそうだもの!
ああ、よかった。怖くて・・・。今からそっちに行くわ。待ってて!」
「気をつけて!」
俺は力強く返事をして電話を切った。
一人じゃない・・・。
スマホを抱いて、俺は自分を鼓舞した。
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