始まりはいつも

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 僕はいわゆる記憶喪失らしい。『らしい』と付けているのは、特に医者に診てもらったわけでもないからだ。いつ頃からか、僕は日常的に物足りなさを感じるようになった。だけど、今までの生き方に不満があるわけでもなく、ある種の確信があり「僕はなにかを忘れているんだろう」と思うようになった。  ただ、心当たりはなかった。特にいつかの記憶がごっそりと抜け落ちているわけでもない。  一つ言うべきことがあるとすれば、中学高校の記憶は、大学4年になった今全く思い出せないくらいか。4月のクラス替えで丁度隣になった、同学年で一番かわいかったはずの女の子の顔にも影が差している。だが、これは記憶喪失とは似て非なるものだ。僕は不要な情報なんかをすぐに忘れることがしばしばある。人の名前を中々覚えられないのもそのせいだった。それとはまた違う。  もう僕の長年のもやもやを取り除いてくれる人は、あの人だけなのだろうと直感が告げていた。  そうして僕は、小学校の同窓会に彼女が参加することを確認して、自分も参加に丸を付けた。  倉梨(くらなし) 水月(みづき)は小学6年の頃に転校していった。水月は僕の唯一の友人と言っても差し支えない存在だった。学校にいる時間のおおよそは水月と過ごしていたし、帰り道も途中まで一緒だった。  ハッキリ言おう。僕は彼女のことが好きだ、今もなお。当時はそのことに気づかずに漠然と生活していたのだが、安っぽいセリフを使うのなら「失ってから初めて気づいた」のだった。  なぜ僕が水月と知り合ったのか、それは小学2年の学活の時間。将来の夢を描いて提出するという内容だったのだが、僕はその時間内に書けなかった。その日最後の学習だったこともあり、居残りをして書いて提出しにこいと言われた。特に不満はなかった。このことに関して悩むことに、僕はゲームのような感覚を持ったのだった。  そうして放課後になり、教室に残ったのは僕も入れて二人。勿論水月だった。その時まで関わっておらず、暗いとか影が薄いとか気味が悪いとか、水月に対する印象はそんなものだった。今思えば、お前が言うなと言われても不思議じゃなかったと思う。  そこはかとなく嫌な気分になり、僕は途端に帰りたくなった。さっさと将来の夢をでっちあげて退散しようと即座に机に座りペンを取ったところで、水月から声を掛けられる。
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