0円公衆電話

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0円公衆電話

「先輩、お水いただいてもいいですか?」 「別にいいけど」  知美(ともみ)は僕の返事を受けると冷蔵庫へと向かい、2Lのペットボトルを持ってくる。そして先ほどまで僕が使っていたコップへと注ぎ始めた。僕の分も注いでくれているのかとも思ったが、やはり自分のものだったらしい。もう、「それ僕が使ってたのなんだけど」と言うのも面倒くさかった。言えば「す、すみません。でも先輩いつも私の使った食器を洗ってくれてるから、洗い物を減らした方がいいと思って…」と涙ながらに告げてくるのだ。確かにその通りだし、僕も形式的に言っていただけなのでどうとでもないのだが、如何せん彼女のすべては演技なのだ。 「………」 「っ! す、すみませんーーーーーカ、カンセツキス…」  話の途中で考え事をして、偶然知美をじっと見つめる形になっただけでこれだ。もう気持ち悪すぎて鳥肌でも立ってきそうな勢いだった。  ただ、それは僕個人の意見であって、大学中の男たちが僕の立場だったら狂喜乱舞していることだろう。知美のルックスは美少女と言ってもいいほどだからだ。  高い場所を選んでいるのだろう、綺麗に染められた長い茶髪。おそらく頻度も月一以下なのではないだろうか。  服装のセンスは、自分の豊満な胸をさりげなく強調するものを毎日選んでいる。でも、まったく同じ着こなしを見たことはない。どれだけこだわっているのか。  一部の噂では、大学にファンクラブがあり、アイドルのように扱われていることもあるようなのだが、その場に出くわしたことはなかった。  なぜ僕の部屋にそんな人間が20時を回っても居座っているのかと言うと、簡単だ。部屋が隣だから、良いように扱われているということだ。知美は僕の一つ下なのだが、入学してきてからすれ違いざまに挨拶なんかをしてきたので返していると、いつの間にかこんなことになっていた。  しばらく、いつものように互いに本を読んだりケータイを弄っていたりしていると、ふとなにかを思い出したかのように知美が手を叩いた。 「そうだ先輩」 「ん?」 「今大学で噂になってることなんですけど、0円公衆電話って知ってます?」 「知らないかな」  今、さも僕が大学関係の噂を当然知っていないように聞いてきた。こういうところが彼女の本性だ。
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