0円公衆電話

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「言葉から察するに、お金を入れないで電話できるとか?」 「それはそうなんですが、そんなに単純でもないんですよこれが」  知美は怪談話でもするような雰囲気の声色で語りだした。  曰く、受話器を持ち上げると勝手に電話がつながる。通信先は限定できず、どこにつながるかも知れない。しかし確かに数回の呼び出し音の後、誰かが電話を取るらしい。電話に出る相手は老人であるとか、二十代ほどの女性であるとか所説あるらしい。  ただ気味の悪い話だな、とそういう印象だった。 「先輩、行ってみましょ!」  突然そんなことを言い出した。 「嫌だよ、暗いし怖い」 「全然怖がってなさそうですけど…」  誰がそんな薄気味悪い場所に行こうというのか。そもそもなんで知美はそこへ行こうと言い出しているのか。すべてがわからない。ということは、部屋でゆっくりしていることが得策ということだ。よって行かない。 「大体、どこにあるんだよ」 「駅から徒歩三分くらいのちょっとしたい住宅街の中ですねー」 「案外近くてびっくりしてる。なんなら、コンビニに行くついでに寄ってみてもいいよ」 「ホントですか! ありがとうございます! 今の時代、夜道を女の子一人で歩くのは危険ですからね」  どうせオカルト好きの人間がでっちあげた噂か、あるいは公衆電話が奇跡的な故障を起こしているかのどっちかなんだろうと高をくくることにした。特に何もなければそれでいい。  外に出るということで、身支度をする。今の季節、部屋着にコートを羽織っても結構寒い。隣に美少女を連れて歩くのだから、それなりの服装をすることも義務だろう、と一般人は思うだろう。もろもろの事情で、タンスから適当に取り出す。室内には知美がいるのだが、前に同じような状況で気にしなくていいと言われたから気にしていない。すべて脱ぐわけでもないから、大丈夫だろう。  その知美は噂の公衆電話に行くのが楽しみなのか、鼻歌を歌いながら僕を待っていた。 「さて、準備オーケーですか?」 「あぁ、オーケー」 「では行きましょ!」  知美が僕の袖を掴んでくる。知美とも結構長い付き合いになった。こういうときはコイツにただ流されるのが正解だ。
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