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「おーい、周!」
親方の声が遠くで聞こえる。周というのは俺の名前だ、俺は覇我周治(はがしゅうじ)という宮大工の…………下っ端だ。
「おーい、周!そこが終わったら飯にしちまえ!」
「へい!でも、キリが悪いんで端までやっちまいます」
「おう!好きにせい!」
そのとき俺は祠の囲いの土台となる石積を組んでいた。作業は修復であるのだから、取り壊す前と同様、もちろんキッカリと組上がるはずである。それがなんともうまくいかない。もともとこの手の作業が俺は苦手だ。と言ったところでどうにかなるものでもない。だからやるしかなかった。慣れない作業に疲れたせいか、一面の端までやりきるとドッとひっくり返って、裏の穴に落ちてしまった。穴というのは、なんでも作業が終わったら不要なものを埋めてしまうのだとかで、午前のうちに皆して深く深く掘った穴だ。
「首尾はよいか?」
すると声がした。おそらくこの仕事の依頼主の宮人だ。以前に聞いたことがある声だ。俺はこんな姿を見られてはマズイと思い、そっと穴を這い上がって様子を覗った。
「ああ、大丈夫だ」
これは知らぬ声だ。影になってよく見えないが闇のような黒い服を着ていて、腰物を佩(は)いていたので、まともな輩でないことは鈍い俺でもすぐ分かった。
「もう一両日中には作業も終わる。今のうちに沈ノ世杙(よくい)を封じてしまおう」
「どこに封ずるのだ?」
「そうさなあ、祠の中では芸もなし、見つかってしまうやもしれぬから、礎が良い。ほれ、あそこなど、まだ作りかけで都合がよい」
まずい、こちらにやって来るぞ。そう思った俺はまた穴の奧の方へ身を沈めて耳をそばだてた。シャンシャンとなにやら音が鳴ったかと思うと怪しい明かりがもれた。
「これでよし、この先、百年は見つからんだろ」
「宮大工どもはどうするのだ?このことを漏らされてはマズイ」
「ぬかりはない。作業がすんだら工具と一緒にキレイサッパリ片付けてしまおう。そのための穴もすっかり掘らせてある」
なんて事だ!大変な話を聞いてしまった。慌てた俺は親方に報せなければ!と、穴の壁づたいにその場を抜け出そうとした。
――チリーン――
その時、背後で鈴の音がした。
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