ドルアーガの教え

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「ゲンさん!?」 経理を担当する源(みなもと)さんだった。歳は50歳を超えていて、この会社では一番年上だ。温厚なその性格からみんなに慕われゲンさんという愛称で呼ばれている。 ゲンさんは、この会社が設立して以来ずっと経理を見て支えてくれている。資金が苦しい時もあったらしい。その時、銀行や取引先に頭を下げ、事業計画をプレゼンし、なんとか乗り切った。すべてはゲンさんのおかげだと、社長が口くせのように言っている。いまも経理を一手に担い、この会社になくてはならない存在だ。 だけど、会社のメンバーたちはほとんどが20歳~30歳前半と若い。歳が離れているため、お互い遠慮して、プライベートな事を話す機会や、飲みにいく機会などほとんどなく、俺もゲンさんがどんな人なのか正直よく知らない。 そんなゲンさんが自らゲームをプレイしたいと言ってきたので、ただただ驚くしかなかった。 「懐かしいなぁ、ドルアーガの塔。当時やりこんだものだよ。」 意外だった。真面目で黙々と仕事をこなすゲンさんがドルアーガの塔をやったことあるなんて。勝手にゲームとか興味ないと思っていた。社員の服装は自由なのに、ゲンさんは必ずスーツかジャケットだった。今日もスーツでばっちり決めている。 一応確認したい。ということで攻略サイトと攻略動画を確認し、操作方法を入念にチェックした。 「よし!やってみるか。」 スーツ姿で背筋をピンと伸ばし画面に向かう姿はちょっと面白かったが、その真剣さに圧倒され誰も笑う人はいなかった。
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