記憶

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私たちに日常が戻った。 残り少なくなった春休みを外で遊び、進級準備をして過ごした。 私があの男の人を見たのはそんな時だった。 男の人は桜の季節になると必ず来る 桜が散り、葉桜になっても同じ樹の下にいた その時は特に何も思わず 今年もいるな。 この桜が好きなのかな? と思うだけだった。 けれど、毎年、毎年、同じ場所に立つ男の人の姿を見つける度 その表情を見る度 奇妙な 不思議な 感情を抱くようになった。 男の人が見上げる桜の木は 夜になると昼間とは雰囲気を変え 艶やかで─ 妖しく─ 心を震わせ─ 目を離す事が出来なくなる─ それなのに なぜか恐ろしい─ と、人々に言わせた。 その姿は今も変わらずに見る人を惹きつけて止まない。
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