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澄んだ青空穏やかに。
桜舞い散る丘の上。
二人の男女が佇んで。
「好き好き大好き愛してる」
彼女の告白はそんな一言。一言にしてはやや多め。内容過多な、濃厚告白。
「うん。確かそんな言い方だったね」
「いやいや。いやいや! 今もその気持ちは変わってないから!」
「変わってないの? ちっとも」
「ちっとも!」
彼女は小さな胸を張る。彼は薄く微笑んで。
「まあ、悪い気は、しないね」
「でしょ? それならさ」
彼女、光明が差したかのように顔を輝かせ。しかし彼氏はつれない言葉。
「でも、やっぱり。別れてください」
別れてください。それは絶対的な拒絶な言葉。聞くだけで、寂しさ迫る、哀しき言葉。
「でも、私は、別れたくない」
彼女は懸命。頑なというより懸命。必死に繋ごうと躍起になって。しかし彼の反応はふるわない。
「でも、僕は別れたいんだよね」
「でも、私は、嫌!」
「困ったな」
彼、言葉のわりにはのんびり口調。どこか牧歌的すら感じさせるのに、彼女への態度は拒絶の一途。
「どうして別れてくれないの」
「だって、好きなんだもん」
その一言は、魔力がある。ましてや桜の木の下で言われた日には、場合によっては飛びあがらんばかりに喜び、快哉を叫ぶことだろう。そう、場合によっては。
花びらが、舞い散る。ひらひら、と。その花びらが彼女の頭の上にのり。彼が優しくそれを取る。その仕草はどこまでも紳士的。彼女は蕩けるような笑み。彼が私に触れてくれた。それも、髪の毛。女性にとっては警戒を抱く、そんな場所を優しく触れた。彼女の心はほのかに温まる。何だか別れ話というのも、白昼夢のような気がしてきて。思わず目をこすってみる。
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