別れる話

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 澄んだ青空穏やかに。  桜舞い散る丘の上。  二人の男女が佇んで。 「好き好き大好き愛してる」  彼女の告白はそんな一言。一言にしてはやや多め。内容過多な、濃厚告白。 「うん。確かそんな言い方だったね」 「いやいや。いやいや! 今もその気持ちは変わってないから!」 「変わってないの? ちっとも」 「ちっとも!」  彼女は小さな胸を張る。彼は薄く微笑んで。 「まあ、悪い気は、しないね」 「でしょ? それならさ」  彼女、光明が差したかのように顔を輝かせ。しかし彼氏はつれない言葉。 「でも、やっぱり。別れてください」  別れてください。それは絶対的な拒絶な言葉。聞くだけで、寂しさ迫る、哀しき言葉。 「でも、私は、別れたくない」  彼女は懸命。頑なというより懸命。必死に繋ごうと躍起になって。しかし彼の反応はふるわない。 「でも、僕は別れたいんだよね」 「でも、私は、嫌!」 「困ったな」  彼、言葉のわりにはのんびり口調。どこか牧歌的すら感じさせるのに、彼女への態度は拒絶の一途。 「どうして別れてくれないの」 「だって、好きなんだもん」  その一言は、魔力がある。ましてや桜の木の下で言われた日には、場合によっては飛びあがらんばかりに喜び、快哉を叫ぶことだろう。そう、場合によっては。  花びらが、舞い散る。ひらひら、と。その花びらが彼女の頭の上にのり。彼が優しくそれを取る。その仕草はどこまでも紳士的。彼女は蕩けるような笑み。彼が私に触れてくれた。それも、髪の毛。女性にとっては警戒を抱く、そんな場所を優しく触れた。彼女の心はほのかに温まる。何だか別れ話というのも、白昼夢のような気がしてきて。思わず目をこすってみる。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!