桜吹雪に想いをのせて

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 秋谷はお茶を一口啜ると、ふと空を見上げて「桜か」と呟く。  桜がどうかしたのかと不思議に思った政がちらりと秋谷に目を向けると、その視線に気付いた秋谷が政に顔を向けて目を細める。 「いやね、普段忙しくしてるんで、なかなかゆっくり桜なんて見る時間がないんですよ。だから桜を見に行くなんて久しぶりだなあ、と思いまして」 「そうなんですか? ならよかったです。その桜が咲いてる場所が古いお寺の裏手なんですけど、たまにお侍さんが数人来るくらいであまり人も来ないのでゆっくり見れますよ」 「……侍、ですか?」  “侍”と聞いたときの秋谷のどこか張り詰めたような表情が気になって、何か侍に関する嫌な思い出でもあるのかと疑問が浮かぶもそれを訊いてもいいものかと政が思案しているうちにそんな政に気付いたのか、秋谷は政を見ては「何でもないですよ」と苦笑した。  それ以降は侍の話題が出ても普段と変わりない秋谷の様子から政も大したことじゃないのかもと思い、違う話題に花を咲かせる。
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