桜吹雪に想いをのせて

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「あ、秋谷さん、あのお寺ですよ」 「ほう、本当に侍が出入りしてるんですね」  目的地である寺が見えると、そこに出入りしている侍の姿も数人見える。全員その腰に刀を差し、厳つい風貌の彼らはまさに侍で、近寄り難い雰囲気を纏っている。  秋谷はちらりと彼らを横目に見ながらそう言うと、すぐに目を逸らし、政と寺の裏手に回る。 「よかったー、秋谷さん! ちょうど満開ですよ!」 「ほんとだ。見事なものですね」  寺の裏手に来るとすぐに視界いっぱいに広がる淡い桃色が飛び込んでくる。寂れた寺の境内にぽつりと一本だけが残り、それでも一枚一枚大きな花びらを纏い、咲き乱れる様はまさに見事の一言に尽きるというもの。  寂れてほとんど人の寄り付かなくなった寺に植えておくには些かもったいないとさえ思えてしまう。
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