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その時圭吾は自分の携帯が震えるのを感じた。偲からのラインである。
『よくしゃべるよな』『大丈夫かな?』『このメンバー』圭吾は指を素早く動かして返信した。
『大丈夫だよ、俺がいるから』『昔からそうだろ?』『俺が上手くやるから』『偲は笑ってればいいんだ』『安心して』『きっと楽しいよ』圭吾は偲の顔を見て頷いた。
すぐにラインが届いた。
『ありがとう』
その後、森、昼食、湖とツアーは進んでいったが,どこも暑く、圭吾たちはうんざりしていた。最後の目的地でバスを降りる頃には、体力のない咲夜などは、背中を丸め、大きく肩で息をしながら渋々降りていくという有様であった。
しかし、バスを降りるとそこは、爽やかな風がほのかに吹いて、本来の五月らしい陽気だった。暑さに参っていた一行にはとても涼しく感じられた。
あたり一面は程よく間引かれた林が広がり、細い道が一本くねくねと曲がりながら遠くに見える白い洋館に続いていた。下草は大いに茂り、色とりどりの花が咲き誇り、花の蜜を求めて沢山の蝶が、ひらひらと舞っていた。
「うわああー、奇麗だね。そう思わない?ネッ、すごいよね!」息を吹き返した咲夜が偲に話しかけた。
偲は美しい景色に目を奪われ感動していたのであるが、話しかけられることで、一気に心を乱された。彼の表情は一瞬曇ったが、すぐに笑顔を作って言った。
「あっ、‥‥うん。」
すかさず圭吾が咲夜の横に来て、
「ほんと、すごいね。天国みたいだね。」
咲夜は偲の様子には全く気付かず、上機嫌で話し続ける。
「すごい凄い!ここは涼しいね。蝶の名前分からないなあ‥‥わかる?山上さん。あれはモンシロチョウ、あっ、あの紫のは何だろ?」
静は小首を傾げて、笑顔で返す。そもそもが、咲夜の質問は答えを期待して発せられたのでは無いので、答が無くても一向に気にならない。
髪をなびかせて歩く静の姿は、周りの景色によく溶け込んで美しかった。しかし、辺りを見まわしてはいるが、その目には何も映っていないかのようであった。
何も感じてないんじゃないかと、圭吾はふと思った。
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