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「崇さん」
背中を向けた崇さんに、僕は声をかけた。
「なんだい」
そう応えながらも、僕の方を向かずに、食器を洗い始める。
「あの……時計、どこに……」
「……片づけた」
「えっ」
崇さんは、そのまま食器を洗い続ける。
「でも、あれは」
「……今の俺にはね、テルくんの悲しい顔を見ることのほうが辛いんだ」
洗い終えたのか、水道をキュッと締めて、僕のほうを振り向いた。
その顔は、とっても優しく微笑んでいた。逆にそれが、僕を切なくさせる。
「……崇さん」
「あ、そうだ」
何を思いついたのか、崇さんがキッチンを出ていったと思ったら、すぐに戻ってきた。その手には、何かを握りしめている。
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