5.ネクタイ

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 ちょうど講義と講義の間の休憩時間。人気のある講義だけに、すでに前のほうの席が埋まってしまっていたので、僕は教室の後ろのはじっこに座っていた。  そんな人々の騒めきの中で、自分の名前だけは耳ざとく拾ってしまった。  見つかりたくなくて、僕はそっと机に突っ伏した。  心の中で、「声をかけられませんように」と祈っていると、肩をちょんちょんと突かれた。  ああ、やっぱり無理なのか。  僕は仕方なく、ゆっくりと顔をあげると、そこにいたのは、カバンを抱えた少し小柄で眼鏡をかけた見知らぬ女の子だった。 「濱田さん?」  自信なさげに声をかけてきている彼女に、僕はどう反応していいのか、ちょっと困惑してしまった。
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