8.酒のつまみ、再び

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 一瞬、ドキッとしたけれど、これは隣に立つ崇さんの大きな手だ。  僕は、チラッと崇さんの顔を伺うと、崇さんもチラリと僕に目を向けて、口角を微かに上げた。  太い指先が、僕の手の甲、指を優しく撫でる。  混んでいるから、誰もそんなことには気づかないかもしれないけど、崇さんの少しエッチな感じな触れ方に、俯いてしまう。 「どうかした?」  小さな声で僕の耳元で囁く。  この人、わかっててやってる。  僕はちょっとばかり悔しくて顔を真っ赤にしながら睨みつけた。  そんな僕を崇さんは嬉しそうに微笑んでる。  この余裕は、やっぱり僕より大人だからだろうか。  エレベーターが一階に着くと、一気に人が流れていく。  それと同時に崇さんの手が離れていく。  崇さんの手の温かさが消えていくのが少し寂しく思いながら、僕たちもその流れでエレベーターを降りた。
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