8.酒のつまみ、再び

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「うちの人が、試作品だって言うんだけど、ちょっと多めに作っちゃったの。他のお客さんにも出してるから、気にせず食べてみて」  女将さんのいう『うちの人』というのは、板前さんのことなんだろう。  チラリとカウンターの中の板前さんの姿に目を向けると、小さく頭を下げられてしまった。 「え、いいんですか?」  周囲を見渡すと、僕たち以外にも同じような小皿をもらっているお客さんがいた。  それは梅干しとじゃこの焼き飯で、微かに醤油の香ばしい香りが、すでにお腹がいっぱいになってた僕の食欲を刺激した。 「どうぞ、どうぞ」  たぶん、小さなお皿だったこともあるだろう。僕はペロリと完食してしまった。 「よく食ったな」 「はい、なんか、お腹いっぱいだったのに、美味しくて食べちゃいました」  そういう崇さんの小皿も、空っぽに。  満腹になった僕たちは店を出ることにした。崇さんが自然と自分の財布と取りだして、会計を済ませてしまう。 「ありがとうございました」  女将さんの声を背中に聞きながら、僕たちは店を後にした。
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