8.酒のつまみ、再び

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 うっすらと目を開けると、薄暗がりの中、崇さんの腕が目の前にあった。  どうやら僕は、崇さんに後ろから裸のまま抱きかかえられるように寝ていたらしい。  無意識に指先を崇さんの腕に伸ばす。  太く浮き出ている血管に沿って、ゆっくりと指先でなぞる。  僕の腕にも同じように浮き出た血管はあるけれど、こんなに力強く太くはない。  指先の動きに気づかない崇さんに、僕はフッと笑みが零れた。  玄関先で声を押し殺していた僕を苛めた後、僕を抱きかかえて寝室に連れて来たかと思ったら、今度は、声が嗄れるまで散々啼かされまくった。  四〇代の体力を侮ったつもりはないけれど、今の身体の気怠さを考えると、崇さんの精力についていけてない自分が恥ずかしくなる。  あんなに啼きまくったせいだと思うけど、ボロボロと泣いてしまって瞼も重たいし、喉もなんだかいがらっぽい。 「んんっ」  喉に手を当てながら、僕は小さく咳払いをした。
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