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「あの、時計……どこですか?」
「あ、ああ、そうだった」
崇さんはゆっくりと身体を起こすと、サイドテーブルの上にあったガラスの置物の手を伸ばした。
「……まだ五時過ぎか」
置物だと思っていたのはガラス製の時計。
横半分に、若かりし頃の崇さんと奥さんが写っていた。
置物と勘違いしたのは、それが裏側を向いていたからで、それが見えてしまった僕は、胸の奥をがズキンと痛くなる。
崇さんは、何事もなかったかのように、再びそれを裏返して置いたけど、僕の顔を見てハッとしたような顔をした。
「テルくん?」
「は、はい?」
僕は何も見なかったかのように、微笑んで返事をしたつもりだった。
だけど、それはどうも失敗したみたいで。
「ごめんよ」
崇さんはそう言って、背中からもう一度強く抱きしめてきた。
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