5.ネクタイ

7/51
前へ
/406ページ
次へ
「い、痛いですっ」 「わ、悪い。でも、マジで頼むよ、俺も困るんだ」 「勝手に困ればいいじゃないですか。そもそも、僕じゃなくたって、平川先輩のサークルの後輩とか、誰かいるでしょう!?」 ムッとしながら、僕は顔をそらした。平川先輩はけっこう大所帯のお遊びサークルに入ってたはずだ。 そうだよ。僕じゃなくたっていいじゃないか。 「この時期に急に頼める奴がいないから、お前に頼んでるんだよ」 "頼むよぉ~”と拝まれても、無理なものは無理だ。 「はぁ?僕だって無理ですからっ」 "堪忍袋の緒が切れる"というのは、こういうことを言うんだろう。いくらなんでも、ここまで僕のことを軽く見るとか、あんまりだと思った。ここが廊下で、僕たち以外にも人がいるのはわかってても、 もう我慢などできなかった。 「自業自得ですっ。他をあたってくださいっ」 僕は掴まれてた腕を振り払うと、猛ダッシュでその場から逃げ出した。背後では平川先輩が僕の名前を叫んでいたようだけれど、そんなことは関係なかった。
/406ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2705人が本棚に入れています
本棚に追加