□第Ⅰ章 阿東アキネ

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□第Ⅰ章 阿東アキネ

 ポカポカと暖かい陽気の三月の春休みのある日、 僕はいつものように玄関を出た。  軒下に作られているツバメの巣を流し見て、門扉の横にある自転車の元へ行く。 その理由は言うまでもなく、自転車に乗って出かけるためだ。  自転車を出してから門を閉めると、僕は自転車にまたがり、ペダルをこぎ始める。  誰かになでられているような春の空気を感じながら、見慣れた景色の中を進んでいく。  人の少ない住宅街を走り、大きな通りに出る。 そこで『わたるくん』という安易な名前の書かれた飛び出し注意の人形看板が目に入る。 これも僕が小さい頃から見慣れた看板だ。  塗装がはげて元の木が見えている板を横目に交差点を渡り、 僕はまた街中を進んでいく。  しばらくするとイトボシ商店街が見えてきた。 この辺の町名である糸星町から付けられたそのままの名前である。  人はそこそこ見かけるものの、 どこか時が止まっているかのようなこの商店街を駆け抜け、 さらに時が止まったていると思えるような場所へと僕は向かう。
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