第二話  270回目 終

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「いやいや、勉強だけじゃなくて、給食とか、友達とか色々楽しみはあるよ、ってことを言いたかったんだ。それなら、どうして学校行かないんだ?」 「行く必要を感じなかったので」 「でも、義務教育だし。行かなきゃいけないだろ。それとも……君みたいなお坊ちゃんは、行かなくてもいいのか?」  子どもはふー、と大きく息を吐いた。俺の方に顔を向けるが、やれやれ、とでも言いたげな表情をしている。 「一週間くらいは当然、行ってみましたよ。でも、ボクの肌には合いませんでした」  一週間でギブアップなんて、どんだけデリケートな肌だよ。ツッコもうか迷っていると、翔太はもう一度ため息をついて続けた。 「とにかく、学校のことはご心配なく。ボクが通学しないことで、行政が介入してくることはありませんから」  はいおしまい、と翔太は目線をノートに戻した。有無を言わせぬ切り上げ方だ。俺はどうも、この子に主導権を握られっぱなしだ。このままじゃいけない、せめてもう一言くらい。 「でもな、翔太。学校にいるのは友達だけじゃないんだぞ。大勢の人間が集まるってことは、何人か可愛い女の子が紛れてるってことだ。いいか、お前の一見純真そうな顔と財力を活かせば、いい思いをすることだってできるかもしれないんだ」  そこまで言ってしまってから、俺は失言をしてしまったことを悟った。子どもが、どうしようもない哀れな者を見る目で、俺を直視していたからだ。 「そんな考え方をしているから、いつまでたっても彼女ができないんですよ。人にアドバイスするより、自分磨きをする方が先じゃないですか」  翔太の目線が俺の頭から、あぐらをかいたつま先まで移動した。全身をくまなく見てから、子どもは鼻で笑った。 「少なくとも、ボクの方があなたよりモテるでしょうね」 「試してみるか?」  気づけば、俺は立ちあがって子どもを見下ろしていた。同居して一週間。鬱憤がたまっていたためか、笑顔を浮かべながらも、低く唸るような声が出た。 「見てろよ。今からでも女の子、ここに連れてくるからな」 「……今からですか」  眉をひそめて俺を見据えていたが、翔太はすぐさま表情を変え、この家に来て初めて、にこりと笑った。 「どうぞ。楽しみにしていますから」 「行ってくる!」
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