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「いやいや、勉強だけじゃなくて、給食とか、友達とか色々楽しみはあるよ、ってことを言いたかったんだ。それなら、どうして学校行かないんだ?」
「行く必要を感じなかったので」
「でも、義務教育だし。行かなきゃいけないだろ。それとも……君みたいなお坊ちゃんは、行かなくてもいいのか?」
子どもはふー、と大きく息を吐いた。俺の方に顔を向けるが、やれやれ、とでも言いたげな表情をしている。
「一週間くらいは当然、行ってみましたよ。でも、ボクの肌には合いませんでした」
一週間でギブアップなんて、どんだけデリケートな肌だよ。ツッコもうか迷っていると、翔太はもう一度ため息をついて続けた。
「とにかく、学校のことはご心配なく。ボクが通学しないことで、行政が介入してくることはありませんから」
はいおしまい、と翔太は目線をノートに戻した。有無を言わせぬ切り上げ方だ。俺はどうも、この子に主導権を握られっぱなしだ。このままじゃいけない、せめてもう一言くらい。
「でもな、翔太。学校にいるのは友達だけじゃないんだぞ。大勢の人間が集まるってことは、何人か可愛い女の子が紛れてるってことだ。いいか、お前の一見純真そうな顔と財力を活かせば、いい思いをすることだってできるかもしれないんだ」
そこまで言ってしまってから、俺は失言をしてしまったことを悟った。子どもが、どうしようもない哀れな者を見る目で、俺を直視していたからだ。
「そんな考え方をしているから、いつまでたっても彼女ができないんですよ。人にアドバイスするより、自分磨きをする方が先じゃないですか」
翔太の目線が俺の頭から、あぐらをかいたつま先まで移動した。全身をくまなく見てから、子どもは鼻で笑った。
「少なくとも、ボクの方があなたよりモテるでしょうね」
「試してみるか?」
気づけば、俺は立ちあがって子どもを見下ろしていた。同居して一週間。鬱憤がたまっていたためか、笑顔を浮かべながらも、低く唸るような声が出た。
「見てろよ。今からでも女の子、ここに連れてくるからな」
「……今からですか」
眉をひそめて俺を見据えていたが、翔太はすぐさま表情を変え、この家に来て初めて、にこりと笑った。
「どうぞ。楽しみにしていますから」
「行ってくる!」
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