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財布をわしづかみにするとジーンズの尻ポケットに突っ込み、俺はアパートを飛び出した。階段を降りたところで、翔太の声が上から降って来る。
「車に気をつけて」
……馬鹿にしてやがる。見てろ、今に見てろ。超絶美少女を連れ帰って、驚かせてやる。
しばらくは興奮冷めやらぬまま都心部に向けて足を動かしていた。絶対に、今日中に彼女を作ってみせるんだ。だが、その意気込みも人通りの多い交差点を歩いているうちに、みるみるしぼんで行った。
「……どうしよ」
手近なファストフード店に入り、窓際に座る。オーダーしたシェイクは、すぐさま運ばれてきた。俺はいったい、どうやって女の子とお近づきになるつもりだったんだ?
「お待たせしました」
テーブルにシェイクを置く、女性店員の胸のふくらみをぼんやりと見つめる。財布に入ったキャッシュカードを使えば、三千万円なんてポンと出せる。札束をこの店員に渡して「ついてきて」と言ったら、うなずいてくれるだろうか? それとも「私の年収は三千万です」とでも言ったら、効果があるだろうか。
ストローをくわえると、不思議と心が落ち着いた。どうしてあんな小さな子に、ムキになったりしたのだろう。精神年齢が一緒なのか? まさか。十歳近く離れてるのに。これはあれだ、一週間も他人と同居してたから、疲れたんだ。だから、ちょっとしたことにも腹をたてやすいんだ。
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