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入ってきたときに開けっ放しにしていたドアの隙間から朝陽が差し込み、店内に一筋の光を投げかけた。がらんとした部屋が浮き彫りになる。俺が丹念に磨いたテーブルは。オーナーが自分の顔を映して喜んでいたポットは。どこに消えたんだ。
「ちくしょう、やられた!」
ドアが勢いよく開け放たれ、大声と共に大柄な男が二名、店内にずかずかと踏み込んできた。その人相の悪さと、騒音を奏でるドアチャームが相まって、俺は恐怖心を覚える。
「ああ! なんだてめえ!」
カウンターの隅にうずくまっていた俺を、そのうちの一人が見つけて鼻息荒く近づいてきた。俺の逃げ場をふさぐようにして、上からにらみつける。
「オーナーの知り合いか? ああ?」
「い、いえ……あ、ただのバイトで……」
「オーナーどこに行きやがった!」
男が俺を見下ろして怒鳴る。俺は縮こまりながら、うつむいた。
「すみません、知りません。僕も今来たばかりで……」
「おい、完全夜逃げだ。踏み倒していきやがった。報告しなけりゃ」
店内を歩きまわっていた相方が、威喝している男に出口を指さしてみせた。かがみこんでいた男は深いため息をつくと、俺から視線を逸らして相方にうなずいた。
「まだ不動産は残ってる。これでなんとか……」
「どうだろう。ここボロイから……」
男二人がひそひそと相談し始めたのを尻目に、俺は彼らを避けて素早く出口に駆け戻った。
「失礼しましたー!!」
「あ! おい!」
後ろから罵詈雑言を浴びせられたが、そんなのおかまいなしだ。俺は一目散に店から飛び出ると、振り返らずに駆け出した。うまく逃げられた安堵感の中に、一抹の不安があった。
これからどうして生きていこう? 職が……なくなってしまった。
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