2人が本棚に入れています
本棚に追加
「どう見ても夜逃げだよなー……」
喫茶店で見かけた二人組が追いかけてこないことを確認して、俺はやっと走るのをやめた。マスターたちには、本当に悪いことをした。俺を雇わなければ、あんな羽目にはならなかったかもしれないのに。給料未払いは痛いけど。しかし、今度こそ新記録、わずか二週間での雇い主潰しだ。四月から、徐々に徐々に雇用期間は短くなっている。次にどこかに雇われたら、そこは一週間で潰れるかもしれない。
「まさか」
俺はそう口に出して、ばかばかしい考えを振り払った。偶然だ、偶然が続いたに過ぎない。何をそんなに神経質になっているんだ? さっさと次の仕事を探さなきゃ……。
ふらふらと駅前まで歩いて行き、俺は無料求人誌置き場の前で立ち止まった。さあ、次の仕事だ。頭の中では分かっているのに、俺はどうしても雑誌を手に取れなかった。何故か分からないが、嫌な予感がしていたのだ。最初は一カ月半、次が五週間、一カ月、三週間、そして最後は二週間で勤めた先々を潰してしまった。次働いたらどうなる? ばらまいた不幸が、俺に返って来ることは?
逡巡していた俺の横を、ランドセルを背負った小学生が走り抜けて行った。続いて、仲間の男子が、猛スピードで先の子を追う。
「つ、次! 次捕まったら、お前終わりなー!」
追いかける小学生が逃げる方に大声で叫び、あっという間に二人の姿は人混みに紛れた。
「次捕まったら終わり」
俺は子どもの言葉を小声で繰り返すと、そそくさとその場を後にした。嫌な予感は、どうしてもぬぐえなかった。
最初のコメントを投稿しよう!