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俺が住んでいるのは、街の外れにある古びたアパートだ。部屋は二階にあるが、そこまで行くのに階段を使わねばならない。それも、踏むたびにギシギシと危うい音を立て、一瞬たりとも信頼して足を置けない代物だ。金さえあれば、いつでもこんなところ出て行くのに。
注意深く階段をのぼりきると、俺の部屋の前に見知らぬ子どもがうずくまっているのに気がついた。いわゆる体操座りで、扉に背中を預け、組んだ両腕に首をうずめている。
「どうしたの?」
そっと近づいて、できるだけ優しく尋ねる。迷子かもしれない。交番に送るべきだろうか。
子どもはびくりと肩を震わせると、顔を上げた。端正な顔立ち。きれいに手入れされた髪。いいところの坊ちゃんみたいな格好だ……あれ、どこかで会ったような。
「初めまして」
いつの間にか、俺は子どもの顔をじっと見つめていた。迷子の男の子は困ったように数回瞬きして、礼儀正しくそう言った。
「あ……迷子かな? お父さんかお母さんは?」
「いません」
「そっか……あー、どこから来たの?」
「その様子だと、まだ読んでないみたいですね」
何を、と聞く間もなく、子どもは軽やかな足取りで階下へ降りて行った。かとおもえば、すぐさま階段を駆け上って来た。
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