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「はい、これ」
「これは?」
子どもが渡したのは、差出人の書かれていない、白無地の封筒だった。表に黒々と「杉会久孝様」と書かれている。
「読めば分かります」
うながされるままに、俺は封筒を開いた。のぞきこむと、中には便箋が一枚。謎の封筒に、謎の子ども……?
ふと、三千万というワードが脳裏に浮かんだ。三千万? 何の話だ?
「三千万……」
うつむいていた子どもが、ハッとした様子で顔を上げた。俺は封筒から便箋を取り出すと、丁寧に折り目のつけられた紙を開いた。
「三千万……円」
俺は子どもを見た。子どもは、くいいるような顔でこちらを見上げている。俺は、驚いていた。手紙の内容もさることながら、三千万という数字をピンポイントで当てられた、自分の勘の良さに。
「どうして、報酬額が分かったんですか……?」
「え? いやー、なんとなく?」
どうやら俺の答えに、子どもは落胆したようだった。再びうつむくと、わずかにドアの真正面からずれた。
「それでは、詳しくは中で話しましょう」
「あ、ああ」
子どもの言動に圧倒されて、俺は言われるがまま室内に招き入れた。それからわずか数十分後、口車に乗せられた俺は、契約書にサインし、子どもが再び外に出て行くのを呆然と見ていたのだった。詐欺かもしれない、と疑うべきなのに、どうしてだろう。朝から続いていた、やけに気持ち悪い焦燥感は、不思議なほど静まっていた。
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