第四話  362回目 終

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 見知らぬ子どもとの同棲生活で、気まずい日々が続くこと一週間。一週間も共同生活を送っていれば、多少なりともお互いを理解して、親しくなれそうなものだけれど。翔太は生気のない目でぼんやりと新品のテレビ(「生活費」としてもらったお金で購入したものだ)の番組に目を向け、俺はそんな子どもを遠巻きに眺める日々だった。口を開けば、外見に似つかわしくない、クソ生意気な皮肉をチクリ。だが、意外にも子ども向けアニメは好きなようで、毎日決まった時間になると、いつも開いているノートを片付け、必ずテレビの前に陣取るのだった。  後見人になってからというもの、ゆっくりと、無為に時間は過ぎていく。これじゃいけない。翔太だけじゃない、俺まで堕落した人間になってしまう。せめてなにか、会話のきっかけを探さなければ。  会話を見つける糸口として、小さい子に有効である手段と言えば、まず、ほめるところから始まる。「可愛いお名前だね」とか、「へえ、この靴かっこいいね、いいな」だとか。そうすれば、大抵の子ははにかみながらも笑顔を見せて、「これはね……」と由来や入手経路を嬉しそうに語りだす。労せずして話題作りができるわけだ。よし、この作戦を使うか。 「あー、翔太」 「なんですか」  そろりと身を近づけると、のけぞるようにしながらも翔太は俺のほうを見た。うん、なかなかいいつかみじゃないか。 「その……さ、今日の髪形かっこいいな! なにか工夫した?」 「まだ寝癖が残っているだけです」 「……いやいや、寝癖でもかっこいいって! い、いいなー。寝癖がかっこいいって、いいなー」  我ながら、完全なる棒読みだ。翔太は聞く気ゼロのようで、視線をまたテレビに戻してしまった。失敗した。毎日会っているというのに、髪形をほめるのは安直すぎた。他のもの、なにか、会話の糸口になりそうなもの……。
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