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「そ、そうだ! 翔太、その腕時計かっこいいな! どこで買ったんだ? 俺もほしーなー」
「……これをかっこいいって言うなんて、センスがおかしいですね。大丈夫ですか」
撃沈だ。やっぱり、子ども向けのキャラクターグッズを欲しがるまねをするなんて、やめときゃよかったか。
「これ、なんてキャラ? アニメか?」
なおもしつこく食い下がると、翔太も自分の腕時計をのぞきこんで、しぶしぶ返事をしてくれた。
「ヨウカイボッチですよ、今はやりの」
「妖怪ボッチ?」
「なんにも知らないんですね。まちなかに出たらどこかで目にするはずですよ」
「知らないな……」
妖怪ボッチだなんて聞いたこともない。なんだ、その悲しい名前は。多分、ボッチとか言う名前の妖怪が、苦労しながらも友達を作っていく、そんなハートフルな話なんだろう。泣ける話なんてのも小学生受けはいいのかもしれないな。
「このキャラクターの名前ってボッチ? 妖怪なのか?」
「違います。これはシバワンです。ただの犬です」
なんだか、中一の英語のテキストにでも出てきそうなそっけない返事をしてきた。え? これ、妖怪じゃないの? 妖怪ボッチなのに?
「え? 妖怪は?」
「そんなの出てきませんよ」
「じゃ、なんで妖怪とかいうんだ?」
「勘違いしていませんか? お化けのほうの妖怪じゃなくて、何か用かい? のようかいです。『用かい? ボッチ』です」
「そ、そうか」
なんだ、そのネーミングセンス。売る気ゼロだろ。その言い方だと、ボッチをおちょくってるようにしか聞こえないんだけど。
「じゃ、じゃあ、どんな話なのかな? 『用かい? ボッチ』って」
「柴犬のシバワンが出てくる話です」
身もふたもない。翔太がそろそろいいでしょう、とでも言いたげな素振りを見せたので、俺はそのまま引き下がった。これで、翔太と親交を深められたとは到底思えない。収穫なしだ。
「でも、『用かい? ボッチ』にそこまで興味を持ってくれた大人は、おじさんが初めてです」
しばらく黙ってテレビを見ていた翔太が、不意につぶやいた。案外、翔太との距離が縮まった……のかもしれない。
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