第一話  270回目 始

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 母子家庭だった俺は、高校卒業後に働く道を選んだ。病気のお袋に金銭的な負担をさせたくなかったし、大学に行こうと意気込むほど勤勉でもなかったからだ。幸い、大手百貨店に就職することができ、十八歳の春から販売員として働きだしたのはいいものの。 「閉店?」  業績がお話にならないほど悪化し、俺の働く店舗が無くなることになった。入社して一カ月半のペーペー、しかも高卒の俺は、すぐに上から見捨てられた。そこで、新しい就職先を探すことになったのだが。 「焼失?」  失業して間もなく拾い上げてくれたパチンコ屋は、客のタバコの不始末が原因で火事が起き、全焼してしまった。せいぜい五週間しか働いていない、新参者の俺はあえなく職を失くし、ハローワークに通う日々がしばらく続いた。未成年の俺にハローワーク職員のおっちゃんは同情してくれ、親身になって企業を紹介してくれた。そんな中で条件の良い勤め先が見つかり、俺は小躍りしながら勤務を始めたのだが。 「破産?」  新たな職場である水産加工物会社の社長が自己破産したとの話を、俺は出勤一カ月で耳にした。工場長は憤懣やるかたないといった面持ちで従業員にそのことを告げ、身の振り方は各自で考えるようにと説教を垂れた。  どうしよう。さすがにここまで来ると、能天気な俺でも頭を抱えることになる。三月に高校卒業してからわずか四カ月。まだ八月にもなってないというのに、もう三つの会社から追い出されている。不運としか言いようがない。ハローワークに顔を出すと、またお前かとうんざりした表情でおっちゃん職員が対応してくれた。 「君、お祓いでも受けた方がいいんじゃない?」  先月とはまったく違う様子で、おっちゃんはそう告げた。確かに、職が四カ月で三つも変わるなんて、どう考えてもおかしい。それも、俺の行く先が次々不幸な目に遭うなんて、呪われているとしか思えない。俺はお祓いこそ受けなかったものの、いい加減やり方を変えることにした。雇用形態変更、つまりアルバイトとして働くんだ。高校時代は普通にバイトが出来たんだし、正社員じゃなきゃ、経営状態が悪くなっても、もしかしたら追い出されないかもしれない。幸い、アルバイトとして働く分には、勤め先はよりどりみどり、選び放題だった。だから、まかないが付いている大手チェーンレストランで働くことを決めたのだけれど。
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