第二話「倫敦の吸血鬼 前編」

2/7
前へ
/45ページ
次へ
 正午にはまだ早いが、日差しに温かさを感じる十時過ぎ。  ホワイトチャペル地区の一角。 「……で、何でアタシに聞くの? やっぱりアタシが頼りになるって事?」  ヴェロニカが顔をにやつかせて言う。 「情報源は複数持っている。その中の一つに過ぎん」 「またまたー!」 「知らんならいい」  踵を返そうとする玉兎。 「待ちなって。心当たりはあるよ。寝物語に女を脅かそうって男は多いからね」  胸を張るヴェロニカ。彼女自身が客を取っているわけではないのだが。 「最近、フリート街で次々、行方不明者が出てるって。しかも、その後、みんな失血死体で見つかるんだってさ」 「ウエストミンスターの方か……こちらとの情報にも合致するな」 「なになに? また怪人の調査?」 「……いいか。これは本当に危険なのだ。絶対について来るな」  静かに、しかし威圧すらしているように言う。 「……なによ。だったらあたしに聞かなきゃいいじゃない」  へそを曲げるヴェロニカ。 「……信用しているからなんだがな」  背を向け、玉兎は歩き出す。  そんな呟きが聞こえたかはわからないが、ヴェロニカは考え込んでいた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加