第二話「倫敦の吸血鬼 前編」

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 スコットランドヤード。  それは世界に名高き英国首都警察の本庁である。  現在ウエストミンスター橋付近へ二代目の庁舎が建設中であるが、その名の通り、まだグレート・スコットランド広場(ヤード)の正面に位置している。  その一室で署員が嫌そうに玉兎へ写真を渡していた。  そこには、今回の失血死事件の遺体が写っている。 「……む」   被害者の女性は全裸であり、首筋がぱっくりとカットされていた。 (これは……おかしい) 「現場に血痕はなかったのか?」 「……い、いえ。ほとんどなく……だから吸血鬼みたいな噂になってるんですよ」 「……なるほどな」 (吸血鬼なら、首筋に噛み跡があるはずだ。だが、これはナイフの跡……)  そして写真を良く見ると、首から上に向かって僅かに血が流れた跡がある。 (これは……吸血ではなく、『血抜き』ではないのか?)  まるで、鹿でも解体するかのように、逆さ吊りにして首を切った……?  玉兎の脳裏を、古い記憶がよぎる。  かつて倫敦に存在した殺人鬼の記憶。 「まさか……だが奴は死んだはずだ……他ならぬ、『俺が一番それを知って』いる。……だが」  胸騒ぎを覚え、玉兎は足早に署を辞した。  外は、もう霧が出ている――
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