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スコットランドヤード。
それは世界に名高き英国首都警察の本庁である。
現在ウエストミンスター橋付近へ二代目の庁舎が建設中であるが、その名の通り、まだグレート・スコットランド広場(ヤード)の正面に位置している。
その一室で署員が嫌そうに玉兎へ写真を渡していた。
そこには、今回の失血死事件の遺体が写っている。
「……む」
被害者の女性は全裸であり、首筋がぱっくりとカットされていた。
(これは……おかしい)
「現場に血痕はなかったのか?」
「……い、いえ。ほとんどなく……だから吸血鬼みたいな噂になってるんですよ」
「……なるほどな」
(吸血鬼なら、首筋に噛み跡があるはずだ。だが、これはナイフの跡……)
そして写真を良く見ると、首から上に向かって僅かに血が流れた跡がある。
(これは……吸血ではなく、『血抜き』ではないのか?)
まるで、鹿でも解体するかのように、逆さ吊りにして首を切った……?
玉兎の脳裏を、古い記憶がよぎる。
かつて倫敦に存在した殺人鬼の記憶。
「まさか……だが奴は死んだはずだ……他ならぬ、『俺が一番それを知って』いる。……だが」
胸騒ぎを覚え、玉兎は足早に署を辞した。
外は、もう霧が出ている――
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