第二話「倫敦の吸血鬼 前編」

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 霧の中、ヴェロニカはフリート街へ向かっていた。  何か具体的な策があったわけではない。  だが、玉兎の助けになりたかったのだ。  危険だと言われても、そんな事は関係ない。  あの貧民区で暮らしてきた彼女にとって、危険など日常にいくらでもある。 (私だって、助けになれるんだから……!)  とは思うものの、霧が濃くなってきて視界がおぼつかない。  そんな有様であるし、他に歩いている人の姿もない。  王立裁判所の前に記念碑があり、その上に立つドラゴンの彫像が不気味である。  冬の倫敦は霧が出やすいのだが、昼過ぎだというのにこう霧が広がるのは珍しい。  この時期の倫敦では産業革命によって煙突が立ち並び、蒸気機関の煙も含め、光化学スモッグを生んだ。  よって、日中の霧自体もなくは無い。  だが…… 「……なんかヘン。煙くない気がする……」  不意に、嫌な予感がよぎる。  そして、視界の端で何かが光った。 「……?」  そちらに目を向けると、人影。 「……!?」  霧を割いて現れたのは、大柄な男性だった。  問題はその姿である。  ずだ袋のようなものを被り、その正面には鉄製の不気味な仮面がはめられていた。  ヴェロニカは知っている。  それは、かつてゴシップ雑誌の挿絵で見た、中世の処刑人の姿――!
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