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霧の中、ヴェロニカはフリート街へ向かっていた。
何か具体的な策があったわけではない。
だが、玉兎の助けになりたかったのだ。
危険だと言われても、そんな事は関係ない。
あの貧民区で暮らしてきた彼女にとって、危険など日常にいくらでもある。
(私だって、助けになれるんだから……!)
とは思うものの、霧が濃くなってきて視界がおぼつかない。
そんな有様であるし、他に歩いている人の姿もない。
王立裁判所の前に記念碑があり、その上に立つドラゴンの彫像が不気味である。
冬の倫敦は霧が出やすいのだが、昼過ぎだというのにこう霧が広がるのは珍しい。
この時期の倫敦では産業革命によって煙突が立ち並び、蒸気機関の煙も含め、光化学スモッグを生んだ。
よって、日中の霧自体もなくは無い。
だが……
「……なんかヘン。煙くない気がする……」
不意に、嫌な予感がよぎる。
そして、視界の端で何かが光った。
「……?」
そちらに目を向けると、人影。
「……!?」
霧を割いて現れたのは、大柄な男性だった。
問題はその姿である。
ずだ袋のようなものを被り、その正面には鉄製の不気味な仮面がはめられていた。
ヴェロニカは知っている。
それは、かつてゴシップ雑誌の挿絵で見た、中世の処刑人の姿――!
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