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スコットランドヤードはフリート街より南西にあり、フリート街に戻ろうとすれば、その途中のキングス・カレッジ・ロンドンの前を通るのも自然であった。
「ぎょ、玉兎……よかった……」
周囲の人間も、ヴェロニカの絶叫に驚いていたが、痴話げんかとでも思ったのか、めいめい視線を外して行く。
「その驚きよう……何かあったな?」
「う、うん!」
「……来るなと言っただろう」
「う……そ、それより! 今あっちに化け物がいたんだ!」
「化け物だと……?」
玉兎の視線が、霧に包まれるフリート街に向く。
「絶対あれは殺人鬼だよ! 私の後を追いかけて来たんだ。こっちだよ! 来て!」
「おい! 待てと言ってるだろう!」
玉兎の止める声も聞かず、ヴェロニカは走り出した。
慌てて玉兎はその背を追う。
再び霧の中に突っ込み、フリート街へ向かって行く。
やがて、王立裁判所前の記念碑に辿り着いた。
記念碑の上のドラゴンの像が、霧に投影されて大きな翼の影を映し出している。
「この辺りで見かけたんだけど……」
「……お前は本当に人の話を聞かないな。待てと言っただろうが」
「大丈夫だって。玉兎が守ってくれるんでしょ?」
「そんな話をした覚えは無い。……それより、その殺人鬼とやらはどんな姿だった?」
「ええとね、鉄仮面で斧を持ってて……」
「何……!」
玉兎の目が丸くなる。
「それは……」
「あーーーっ! アイツ!!」
ヴェロニカが鼓膜が破れんばかりに絶叫し、玉兎の背後を指さす。
そこには、処刑人の姿があった。
「お、お前は……!」
振り返る玉兎。
が、その処刑人が逆に玉兎の背後を指さした。
「はっ……!?」
そこには、吸血鬼に首筋を噛まれている、ヴェロニカの姿だった。
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