第二話「倫敦の吸血鬼 前編」

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 スコットランドヤードはフリート街より南西にあり、フリート街に戻ろうとすれば、その途中のキングス・カレッジ・ロンドンの前を通るのも自然であった。 「ぎょ、玉兎……よかった……」  周囲の人間も、ヴェロニカの絶叫に驚いていたが、痴話げんかとでも思ったのか、めいめい視線を外して行く。 「その驚きよう……何かあったな?」 「う、うん!」 「……来るなと言っただろう」 「う……そ、それより! 今あっちに化け物がいたんだ!」 「化け物だと……?」  玉兎の視線が、霧に包まれるフリート街に向く。 「絶対あれは殺人鬼だよ! 私の後を追いかけて来たんだ。こっちだよ! 来て!」 「おい! 待てと言ってるだろう!」  玉兎の止める声も聞かず、ヴェロニカは走り出した。  慌てて玉兎はその背を追う。  再び霧の中に突っ込み、フリート街へ向かって行く。  やがて、王立裁判所前の記念碑に辿り着いた。  記念碑の上のドラゴンの像が、霧に投影されて大きな翼の影を映し出している。 「この辺りで見かけたんだけど……」 「……お前は本当に人の話を聞かないな。待てと言っただろうが」 「大丈夫だって。玉兎が守ってくれるんでしょ?」 「そんな話をした覚えは無い。……それより、その殺人鬼とやらはどんな姿だった?」 「ええとね、鉄仮面で斧を持ってて……」 「何……!」  玉兎の目が丸くなる。 「それは……」 「あーーーっ! アイツ!!」  ヴェロニカが鼓膜が破れんばかりに絶叫し、玉兎の背後を指さす。  そこには、処刑人の姿があった。 「お、お前は……!」  振り返る玉兎。  が、その処刑人が逆に玉兎の背後を指さした。 「はっ……!?」  そこには、吸血鬼に首筋を噛まれている、ヴェロニカの姿だった。
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