第三話「倫敦の吸血鬼 後編」

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 黒服本部。  ドアを蹴破るように開けると、毛玉――B・Bが驚いて飛び上がった。 「なんじゃそうぞうしい!」 「緊急事態だ。協力者が吸血鬼に噛まれた。治療を頼みたい!」 「……治療と言ってものう……正直、運にはなる。覚悟せにゃならんぞ」  決して言葉に冷たさがあるわけではないが、事実のみを告げる言葉はナイフのような鋭さを持っている。 「……その時はその時だ」 「……わかった。仕方ないのう。寝かせておけ」  言われるがままにヴェロニカを床に下ろすと、B・Bが自らの指先を噛み、その血によって陣を書き始めた。 「陣を書くのを手伝おう」 「東洋には対吸血鬼の術式はないじゃろう。むしろ邪魔じゃ。そんな事よりお主にはやる事があるはずじゃろう」  図星をさされ、玉兎は押し黙る。 「そうじゃ、今回の件、レイヴンも動いとるぞ」 「それより、聞きたい事がある。『スウィーニー・トッド』を覚えているか?」  スウィーニー・トッド。  主に19世紀半ばの大衆向け雑誌などに書かれた殺人鬼である。  彼は、フリート街に理髪店を構える理髪師であり、その理髪店の椅子には地下に相手を落とす仕掛けがあった。  そうして地下に落とした客の喉をかき切り、金品を奪ったという連続殺人鬼である。  話のバリエーションが多数存在し、真偽定まらぬホラーとして知られている。 「そりゃあまあ、覚えておるが」  答えつつ、B・Bの陣を描く指は止まらない。
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