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たちまち教会を揺るがす程の大きな衝撃と轟音が扉に大きな穴を開けた。
アドバスはその驚くべき力に息を飲みつつも、さして驚いてはいない様子。むしろ、できて当然というような顔をしている。
「やはり教会兵士ごときでは止められなかったか」
女はアドバスを見据えながら、壕へ足を踏み入れる。
剣を握る手に自然と力が入った。
「全く……どいつもこいつも、役立たず共が」
みるみる2人の距離が縮まっていくなか、アドバスの口調はなお高慢である。しかしそれは決して強がりなどではない。何故なら、彼の持つ傲慢さと、そうさせるに足る2つの理由があったからだ。
そしてアドバスは女を指さして言う。
「貴様のことは知っているぞ、女! 5年前“神の儀”によって右眼にヒクマを得たにも関わらず我々に仇なした女……奴隷のカテナだ!」
そう、女はカテナという名だった。
そして“声”とは。
「さあヒクマよ、私にもその驚異なる声を聞かせよ!」
首をもたげ、両腕を鳥のように大きく広げるアドバス。
そこへぽつりと“声”が言う。
『……いささか癪に障るが、よかろう』
“声”は、ヒクマという名であった。
すなわちカテナの獣のような右眼こそヒクマであり、“声”であったのだ。
アドバスは興奮を禁じ得ず、堪らず唸り声を上げた。
「正しくヒクマ(叡智)の響き! 我らの求めた声!」
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