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鬱蒼と草木が生い茂る山中。
山道を外れ、切り株に腰かけるひとつの人影があった。
麻布をただ巻きつけたような粗末なマントで全身を覆い、顔は目深く被ったフードの陰に隠れている。その姿は男とも女ともつかず、ともすると“者”だ。
そこへ、1匹のトカゲが這い寄る。
無警戒で草の根を掻き分けるそいつの尻尾を、やにわに“者”の足が踏みつけた。
慌てたトカゲは根本から尻尾を棄てて一目散に逃げる。
“者”は足を退け、まだ元気のよい尻尾を摘み上げると、軽く泥を落として口に入れた。
口の中で踊るコリコリとした食感は、ものの数秒で喉の奥へ消える。当然、腹の足しになどならない。
「…………」
満足いくはずのない食事に不満を感じていると、ふと背後の木陰から物音を耳にする。およそ山の中では聞かぬような乱雑な音に、駆け乱れる人の足音。
たちまち悲鳴が上がり、木陰や草陰に潜んでいた鳥や獣達が一斉に草木を揺らした。
さらに木陰の物音は収まるどころか激しさを増すばかり。悲鳴もひとつではなかった。
程なくして“者”が切り株から腰を上げた。
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